おっさん、ささやかな善意に気づく ~水溜まり~
職場から駐車場まで少し距離がある。帰路、傘を差しながら歩いた。
朝から続く雨が道路の窪みに溜まっていた。
前方から車が来た。水溜まりにお構いなしで、歩道まで思い切り水を飛び散らせてくる。
やばい。
傘を車に向けたが、無意味だった。
車が水溜まりに突っ込み、大量の水が飛び散った。傘で守ったあたりは守れたが、肩、胸、頭そして顔面に水飛沫が直撃した。
振り向くと、後ろを歩いていた人も、車が跳ねた水飛沫が思い切りかかっていた。
運転手は水をかけたことに気づいているのだろうか?
あるいは、故意に水溜まりに突っ込んだのでは?
そんな、無意味なことを葛藤しながら駐車場に向かった。
翌日の出勤中。先日水が跳ねた場所には水溜まりが残っていた。というか、頻繁に車が走る箇所は一直線に窪みが生じていて、道にずっと水溜まりが続いている。
車が通る度に水が跳ねることに備える。が、逃げ場などない。水が跳ねれば大なり小なり水に濡れることになるだろう。
車が通る度に、来るか、来るかと身構えていたが。一向に水が飛び跳ねてこない。
僕の前を歩く歩行者の側を車が横切るときに、ふと気づいた。
歩行者の側を通る際、減速している。
それだけでなく、道路の窪んで水が溜まっている所を避けて車を走らせている事に気づいた。
その後も数台の車が横切ったが、皆水が跳ねないように運転しているように見えた。
今までは水がかからなかったんじゃなくて、水をかけないように気を付けてくれる人ばかりだったんだ、という事に、やっと思いが到った。
そんな事に今まで気づかなかった自分の事が恥ずかしく思えた。
その後、水溜まりがある日には意識して車の走る位置や減速具合を見ていたが。皆歩行者の側では配慮のある運転をしていた。
水飛沫を飛ばすような運転をする人の方が稀だった。
最近厭なニュースばかりで、人なんて基本自分勝手な人ばかりだよな、なんでこんな酷い事をできるんだろうな、なんて思っていたけど、そうでもないらしい。
(公衆トイレの水石鹸の容器に硫酸が入っていたというニュースを聞いた時は本当に絶句)
歩行者に水をぶちまけても犯罪にならないし、顔もおそらくわからないだろうから後腐れもないだろうけど、相手が嫌な思いをしないように、水をかけないよう気を付けてくれる。
それは些細だけど、善意だとおもう。
小さな善意でも、気づくと心が暖かくなる気がする。
見ず知らずの他者に悪意を振りまいて喜ぶ人間より
見ず知らずの他者に善意を施せる人間になりたい。